今年秋、国の天然記念物である「奈良の鹿」によるけがが相次ぎ、奈良県や奈良市などは初めて「厳重注意」を発表した。鹿と1300年の歴史を刻んできた奈良で、この先も共生は可能なのか。専門家は鹿と人の距離感を見つめ直すべきだと指摘している。11月は奈良の鹿の愛護月間。
奈良公園を訪れる外国人観光客でごった返す近鉄奈良駅。10月上旬から今月7日までの約1カ月間にわたり、改札口近くのモニターには、鹿を「さわらない」「距離をとる」と注意を呼びかけるメッセージが表示され、英語や中国語の音声アナウンスも流れた。
秋は鹿の発情期で、雄鹿の気性が荒くなる中、今年は鹿に体当たりされるといった人身事故が急増した。9月の事故は43件で、前年の約2・5倍になった。角によるけがが多くを占め、太ももを刺されて救急搬送されたケースもあった。
被害に遭った半数以上は外国人観光客で、不用意に近づいたことなどが原因となったとみられる。
鹿の角は毎年生え替わり、大きなものは長さ60センチ近くに達する。一般財団法人「奈良の鹿愛護会」は事故予防のために毎年職員が1頭ずつ麻酔をかけて切断している。今年は例年を上回るペースで角切りを進めたが、鹿の数が増えたのに伴い、けがも増加した可能性があるという。
「厳重注意」は県と市、愛護会が連携して呼びかける初の機会となったが、10月下旬からけがが減ったことを受け、実質「解除」になった。ただ、角を切られた後でも人にけがを負わせる可能性はあると愛護会は注意を呼びかけている。
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